久山町研究は、1961年に始まって以降、九州大学が中心となって世界的にも注目される科学的な成果を多数あげてきた、福岡県久山町の住民を対象にした疫学研究です。2019年の同町の40歳以上を対象にした健診で、皮膚カロテノイドの測定(ベジチェック®にて実施)を希望した者(1,743名)のうち、解析の除外基準に該当しなかった1,618名について、メタボリックシンドローム(以下メタボと略す。1,618名中506名がメタボに該当)との関係性を評価した結果、測定値が高いほどメタボ該当者が少ない関係にあることが分かりました。
■本研究結果に基づく、ベジチェック値とメタボリスクとの関係性左図の実線(曲線)に示したように、メタボに該当するリスクはベジチェック値が4から7に上昇するに従い低下することが明らかになりました。
なお、この結果は、メタボリスクと関係する種々の因子(年齢・性別・血清総コレステロール濃度・高脂血症薬の使用有無・現在の飲酒習慣・現在の喫煙習慣・定期的な運動)の影響を考慮したうえで得られたものです。
カロテノイドに関するこれまでの知見を踏まえると、カロテノイドを多く摂取することだけでこれほどまでにメタボリスクが下がるとは言えませんが、
十分な野菜摂取も含め、皮膚カロテノイド値を高く保つ生活習慣は、メタボリスクを低くすることと関係するものと考えられます。
ベジチェック値が高いほどメタボリスクが低い関係性にあることは上記の通りですが、メタボと関連する複数の項目とベジチェック値との間にも有意な関係性があることが、本研究で明らかになっています。
すなわち、男女それぞれをベジチェック値の高低で25%ずつ4グループに分け、種々の項目との関係性を調べた結果、ベジチェック値が高いグループほど、メタボのリスクに加えて、①腹部肥満、②高血圧、③高血糖のリスクがいずれも低いことが分かりました。
一方、脂質異常の指標となっているHDL-(善玉)コレステロールの低値や中性脂肪の高値との関係は必ずしも直接的なものではなく、肥満との関係性を介して間接的に関連している可能性があります※
※ ベジチェック値は腹部肥満のリスクと関連します。そして、腹部肥満の人は脂質異常(HDL低値や中性脂肪高値)であることが多いことがわかっています。つまり、ベジチェック値と脂質異常との間に関係性があるように見えても、それは腹部肥満との関係性を見ているに過ぎない可能性がある、ということになります。
上述の通り、本研究は何らかの因果関係を明らかにしたものではありません。そのため、皮膚カロテノイド値を高めることにつながる“十分な野菜や果実の摂取”といったことも含め、どのようなことがメタボリスクを下げることに直接的に関係しているのかは、今後の研究を待つ必要があります。
■ 原著論文